古本屋稼業

「私は、数学も宗教書も、料理本も山岳関係も、平安時代の古典文学からラテン語の神学書まで、とにかく活字とあれば、何でも読みます」などという人は、まずまれです。長年、古本屋をやっている私でも、そうしたマルチな本読みにはこれまで数えるほどしか会ったことがありません。 素人の本好きであれば、それでも十分でしょう。しかしながら、仮にも古本屋を経営する店主と しては、興味がある分野の本のことしか知らないというのではすまされません。言ってみれば、ど んなジャンルの本に対しても、そこから網の目のように広がる「一冊の本が内包する文化」に常に アンテナを立てて好奇心を持ち続けることそれが、古本屋としての必要不可欠な資質になる のだと思います。

本書の読者であれば、たぶんみなさん本好きで、本屋にもよく足を運んでいることでしょう。そ うしたみなさんが、本屋に並んでいる何百冊、何千冊の、まだ読んでいない本のなかから、自分が 読みたい本をどうやって探し出すのか、どのように嘆覚をはたらかせてその一冊を選び出している のか、考えてみたことがありますか? 古本屋が目の前の一冊の本を自分の店に置くか置かないかを見極める能力も、みなさんが書店の 棚から購入する一冊を選び出すときの能力に近いものがあります。結論を先にいうと、この本を読 むのはどんな人かということに想像力をはたらかせる技術を磨く。これが古本屋稼業の第一歩 です。

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