本を見極める能力

本を買うときに、みなさんはどこを見ていますか? 本を選ぶときには、目次や索引、文体はどうかといった本の中身、内容的なものよりも、本の大きさである判型、厚いか薄いかのページ数、表紙の紙は硬いかソフトか、函付きか函なしか、 装丁のデザインなど、その本の形に込められた「メタメッセージ」のほうが、実はとても重要なの です。読者は、そこから発信されているものを無意識に読み取って、本を買っているからです。 このメタメッセージについて説明する場合、私はよく夫婦や親しい友人同士の日常的な会話を例 に挙げます。そこで大事なことは、話している内容そのものよりも、言い方のニュアンスのほうで す。「ずいぶん遅く帰ってきたね」というような文字にすると何げない一言であっても、けんか腰 で言うのか、いたわりの情を込めて言うのかによって、受け取る側の印象は大きく変わります。言 っている内容よりも、言い方によって多くの情報が込められています。 本についても同様で、その本を一目見た瞬間に、本が発しているメタメッセージのニュアンスを 買い手は本能的にキャッチします。誰でも、自分が好きでよく知っているジャンルの本に関しては、 このメタメッセージを受け取る技術をある程度、自然に身につけています。例えば、料理本を買い 慣れている人であれば、カバーの写真の撮り方、帯の文言の言葉遣いから醸し出される雰囲気、判 型や厚み、表紙の配色、本文のレイアウト、そのほかさまざまな小さな手がかりを総合して、「こ れは自分に向いた、いい本」かどうかを容易に見分けることができるでしょう。 プロの古本屋であれば、そうした本を見極める能力が、どのジャンルの本に関しても人よりも抜 きんでて鋭いことが必要です。本を見た瞬間に、これはどんな読み手に求められているかを見極め
る技術を高めていくこと。それこそが古本屋にとって、必要不可欠な大事なスキルの第一歩にな ります。 その際に古本屋が手がかりとしているものが、本の外観が伝えるメタメッセージで、そこから読 み取れる情報を、私は「本のスジ」と呼んでいます。「本のスジ」は、世の中でその本がどんなポ ジションにあるのかを端的に表しています。書かれている内容よりも、何について、どんなふうに 書いてあるのか。つまり、テーマよりも、その伝え方のニュアンスのほうが重要なのです。